美しいコーディリエラの山々に刻まれたライステラス。2000年間お米とともに生きてきたイフガオの人々。
田を耕し、田から得る。
今年もなんとかなりそうだ。またお付き合いよろしく、そしてありがとう。
そんな収穫祭の季節がやってきた。そう、喜びの祭りプンヌックが。
“PUNNUK(プンヌック)”とは?
プンヌックは世界遺産の棚田があるハパオ村にて行われる収穫祭です。ハパオ村、バアン村、ヌングラナン村の3つの自治体合同で行われる年に一度の大事なお祭りとなっています。毎年収穫時期が若干ずれるため、いつも直前にスケジュールが決まります。2016年は7月22、23日に行われました。
2日間にかけて行われるプンヌックですが、そのメインイベントとなるのが3つの自治体対抗の綱引き。ここでは綱の代わりに先をフック型に削った木々を引っ掛けて引っ張り合います。この木のことを“pakid”と呼ぶそうです。
木々の間に収穫し終わった稲のわらで作ったキアナグと呼ばれる人形を挟みます。両者が引っ張り合う中で擦れてわらが徐々に川下へと流れていきます。下流に住む人々はこれを見て「今年も収穫が終わったか」と知るようです。
そんなプンヌックですが、実は長い間行われていない時期もありました。1999年にバギオの著名な映像作家キドラットさん(写真左から2人目の男性)を中心に活動し、お祭りは復活しました。しかし、それから15年間外部の人の参加は認められていませんでした。2014年にはじめて外部の人の参加が認められて以降急激に認知されるようになり、今年も大きな注目を集めています。
プンヌックが行われるハパオ村
プンヌックが行われるのはバギオのさらに北にあるイフガオ州のハパオ村という小さな自治体です。有名な観光地バナウェから16キロの位置にあります。ジプニーでさえ1日1本しか通らないというエリアで段々の田んぼが特に美しい場所です。
1日目:収穫終了の儀式
トモナックと呼ばれる地域の女性リーダーの家にみんなが集まり始めます。
マニラの新聞記者や台湾・シンガポールからこのためにやってきたという研究者やメディア関係者の姿もありました。
先祖の魂を呼ぶという集落の長のような男性は大きな壺の中に入ったライスワインをすくって飲みながら何やら唱え言をしています。
そうしているうちにトモナックが2羽の鶏を運んできました。ちなみに彼女が毎年のプンヌックの日程を決めています。
ここでも唱え言をしながら鶏の喉のあたりに包丁を入れていきます。次第にそこから濃い血液、もはや汁といった方が正しい表現のような赤い液体が滴ります。受け皿にしているのはココナッツの殻。
そうして絞めた鶏をそのまま火にあてます。その後羽をむしり、部位ごとに包丁で分けていきます。
その際に行われる占いがハルぺと言います。絞めた鶏の胆嚢の形で占いたいことへの吉凶を見るというこの地に根付いた風習です。
それが終わると男性は集落の方を向いて雄叫びを始めました。村の人々に収穫の終わりとお祭りの始まりを告げているようです。
こうした一連の儀式はフワと言うそうです。
夜にはイフガオ族の方々に招いていただき、同じくプンヌックのためにハパオを訪れていたフィリピンの学生やメディアの方々と一緒に前夜祭に参加しました。火を囲んだ民族のダンスを教えてもらいつつ夜を明かしました。
2日目:プンヌック(村対抗綱引き)
プンヌックは川が二手に分かれる「Y」の字地点で行われます。ハパオ村、バアイ村、ヌングラナン村という3つの集落を意味しているのかもしれません。男性は皆鮮やかなふんどし姿、女性も同じ色合いのフォークロアなスカートに。
はじめに代表者なのか屈強な男が川の真ん中で1対1の相撲を始めました。
その後少年の部、女子の部、大人の部などそれぞれのカテゴリーでの試合が行われます。周囲は皆叫ぶように自分の村を応援しています。
中には試合が終わり、勝った側が負けた側の目の前でわざとらしく舞い踊って喧嘩のような場面も発生しました。心配しながら見ていると相撲を取った後には笑顔で握手していたのでどうやらパフォーマンスだったようです。
驚いたのはおばあさん同士でもこのような取っ組み合いをしていたことです。周りは完全に野次馬と化して大盛り上がり!
真剣勝負ですが参加者・見物者皆楽しそうでした。
そうこうしているうちに人々の視線が我々見物者に集まってきました。よく聞くと「ビジター!ビジター!」と参加召集がかかっています。
ということで…
参加してきました!(そしてぼくはこの取材唯一のズボンを犠牲にするのでした…)
善戦しましたがやはり山の男たちには敵いませんでした。本当にいい身体をしています。
表彰式にうつります。それぞれのカテゴリーで1位から3位まで順位が付けられ表彰されていきます。なんとそれぞれすべての順位に賞金が出されます。カテゴリーによって違いますが、だいたい3位500~1000ペソ、2位2000ペソ、1位3000ペソとかなり豪華な内容でした。
まだまだ自給自足がメインな山岳地域ですが教育や医療などどうしてもお金が必要になる機会があります。ここで得たお金はそうした部分にあてられるのかもしれません。
その後はそれぞれ指定場所にて豪華な食事を皆で食べる場に移行するという流れでした。
まとめ:人のたくましさと美しいコミュニティ
3年前まで外部の人は参加できなかったというプンヌック。そこにはライステラスを守り続ける屈強な男たちと美しい女性たち、そして村の希望である多くの子供たちの姿がありました。
参加者と見物者の間に明確な線引きがされず、その場にいるすべての人を“一つ”にしてしまう力がプンヌックにはあります。
山間の小さな村、また一つ美しい光景に出会いました。