※この記事は、米国アップル本社のシニアマネージャーとして働き、現在はBrighture English Academyの英語学習最高顧問を務める松井博様からの寄稿記事です。アップル本社で培った経験がベースとなっているビジネス英語学習のノウハウです。記事は3回に分けて掲載されまして、今回は第二弾、ビジネス英語実践編です。第一回:ビジネス英語勉強法、3つのステップ【僕がアップルで学んだこと】
前回は、「簡潔に事実を伝える」ことの重要性と、その際に気をつけるべき点について解説しました。今回は、交渉の際に必要な英語について解説しましょう。
ただ交渉と一口に言っても、幾つかのレベルがあります。担当者レベルでメール、あるいは口頭でやり取りすると言った比較的簡単な交渉もありますし、上司に進言するとか、会議などで大人数を説得するなどいった、より難易度の高い交渉もあります。お客さんとの交渉でも、自分が金を払う側なのか、あるいは払ってもらう側で買い叩かれないように粘るのかでは難易度は大違いです。
まずは、親密な間柄にある取引先や、親会社の担当者とのやり取りといった比較的難易度の低いところから、その攻略法を考えていきましょう。
ケース1. メールにて違約金の額を交渉した際の実例
今回もまず、書くことについてから解説したいと思います。
メールでもっともありがちな失敗は、失礼なメールを書いてしまうことです。
例えば、先日ある方が書いた英文メールを添削する機会がありました。その方はある会社との違約金の額を交渉していたのですが、こんなふうに書いてしまっていたのです。
間違った英文メールの例
You had better pay me $30,000 at your earliest convenience.
had better は「〜したほうがよい」と習いますが、実はもっと強制性の高い、非常に強い表現です。had better が強い表現であることは随分知れたため、大間違いをする人は減ったように思います。しかし、それがいったいどのくらい強い表現なのかは多くの人はどうもピンときていないようです。実はこの had better と言う表現、親が子供を厳しく叱ったり、上司が部下を震え上がらせる時にしか使わないほどキツい表現なのです。
ですのでこの一文は「とっとと3万ドル払わないと身のためにならないぞ」くらいのインパクトになってしまっています。その後この相手側は態度を硬直させ、交渉が実に難しいものになってしまったのです。
正しい英文メールの例
ではどんなふうに書けばよかったのでしょうか? 例えば:
I strongly believe that you are obliged to pay us $30,000 for the damage you have caused, and we would like to settle this matter as soon as possible.
なんて言ってもよかったわけです。でも表現を知らないと言うだけで、とんでもないことを書いてしまい、相手を硬直化させてしまうわけです。この方はその後、英文メールを出す前に僕が全てメールを添削し、最終的には当初要求額のほぼ倍の額をゲットしました。相手の心証を無駄に害さないこと、これは交渉以前の問題です。
それでは次に、口頭でも文章でも使える、相手の心証を無駄に害しない表現方法を2つほど紹介しましょう。
ケース2. 何かをお願いする場合の例文
まず最初に、お願い事をする場合を考えてみましょう。何かを頼むというと Please ~.と書きたくなりますが、Please と言う表現は、命令形に Please がついただけですから、実はかなり強制感があり、対等なレベルの人にものを頼むときの表現として一般的ではありません。一般的な表現方法は次のようなものです。
お願いするときの例文
I would appreciate if you could ~.
使い方は簡単で、例えば、
I would appreciate if you could send me the report at your earliest convenience.
などと言えばいいわけです。Please ~.とはずいぶん印象が違います。部下にお願いするのなら、Please send me the report as soon as possible.でもかまいませんが、取引先や上司、あるいは他部署などにお願い事する場合などには適切な言い方とは言えないのです。
さらに丁寧にお願いするなら、次のような言い方も有効です。
I am wondering if you would allow me to ~.
例:I am wondering if you would allow me to announce the planned organizational change.
I am wondering if you would (could) consider ~.
例:I am wondering if you could consider the changes I have proposed at the last meeting.
With your permission, I would like to ~.
例:With your permission, I would like to start implementing the changes that we have discussed.
これらの言い方は上司にお願いするときの決まり文句的なフレーズです。覚えておいて損はありません。
ケース3. 何かを断る場合の例文
「英語は直接的な表現を用いる。だから、NO の時ははっきりと NO と言えばいい」
巷ではよくこんなことが言われますよね。しかし、これもまた相手によりけりです。取引先や上司の提案を受け入れられないからと NO. という言葉で返していたら、心証を害して取引も出世も望めなくなってしまいます。例えば取引先からのなんらかのオファーをやんわりと断りたいのであれば:
I appreciate your kind offer, but we are not quite ready to accept it right now.
などと言い、NOという言葉は使わないように気をつけます。あるいは、上司などに無茶な業務命令をもらった場合にも
I would like to fulfill your request, but here are some of the issues that hinder me from doing so.
「業務は遂行することはやぶさかではありませんが、現在以下のような問題があり、実行できない状態にあります。」
など言ったように返せばいいわけです。
英語の世界だって明確な上下関係があり、婉曲的な表現や丁寧な表現も当然多用されます。相手や状況に応じてニュアンスを変えていく当然のことなので、この辺りを抑えないと、まずは交渉の土俵にさえ上がることができません。
ケース4. 会議で交渉する場合
さて、ここまでは主に1対1のやり取りについて話をしてきました。このレベルの交渉ごとが難なくできるようになったら、次の課題は会議での発言です。
実は日本人は英語での会議で全く発言できないことで有名なのです。どのくらいできないかというと、「国際会議でもっとも難しいのはインド人を黙らせることと日本人を喋らせることだ」というジョークがあるくらいなのです。
実際問題、対等な立場の人が5〜10人集まって喧々囂々とやりとりする場では、下手をすると一言も発することさえできずに終わってしまうことが多々あります。これらの会議では、日本では絶対に教えてもらえないようなビジネス・イディオムを用いた早口の機関銃英語でまくし立てられます。
TOEIC 600〜700点レベルでこういった会議に出席したら、おそらく話の3分の1も理解できないでしょう。周囲の言っていることを理解するのに脳をフル回転させてるようでは、発言するなんて夢また夢です。このような環境で対等に仕事ができるようになりたいのなら、完全に英語で思考し、英語が自然と口をついて出てくるまでにならないと、とてもじゃないけどオボつきません。
問題は日本人の英語力だけではない
またさらに本質的な部分に踏み込むと、これらの会議で発言できるかどうかは純粋に英語力だけの問題でもないのです。日本人は奥ゆかしすぎるのか、英語が相当に堪能な人ですら会議に割って入れません。英語自体が堪能なのは必要最低条件ですが、それ以外にディスカッションに自分から割り込む訓練を徹底的にしないと、いつになってもまともに発言できるようにはなりません。
僕自身もこの辺りでは相当苦労しました。「自分が納得いくまで、何度でも会議を止めて、食いついていけ!」と上司に何度も檄を飛ばされ、何年もかかってやっとできるようになったのです。
発言の機会は自分で作る
インド人やアメリカ人の話すのの早いことといったら、それは日本人とは全く違うペースなのです。誰かが話し終わったら、間髪をおかず違う人が話し始めます。それどころか、話し終わらないうちからかぶせてガンガン喋り始める人さえいるくらいです。
そんな中に割って入るには、相手の発言が終わる前から Yes. Yes. とうなずいたり、No. No. としかめっ面をして首を横に振るなどして、自分の意思をはっきりとアピールし、周囲の関心をゲットします。
そして、前のめりになり、小さく手をあげるなどして、「自分も発言したいんだ!」という姿勢をしっかりとアピールする必要がありです。そして誰かの発言が終わったら間髪をおかずに話し始めるのです。多少発音が悪くてもいいから、ゴリゴリと押し出すことが何よりも肝心です。
実践的な英語力を日本人へ。僕がBrightureに魂を注ぐ理由
冒頭でもご紹介がありましたが、現在僕はフィリピンのセブ島を舞台にBrightureを運営しています。
なぜBrightureを創設したのか?その理由はシンプルで、海外で活躍できる日本人をもっと増やしたいからです。日本人は基礎スキルが高く、英語という武器さえ身に付ければ海外に出ても十分戦っていけます。それだけではなく、英語を学ぶことでより豊かな人生を送れると信じております。英語を身につけて、より可能性に満ちた人生をおくりたい方を応援しています。