【前編】(バギオで活動するNGO団体であるCGNの紹介)に続きまして、今回はバギオの環境NGO団体CGNとコーヒー栽培技師山本さんの共同プロジェクトの一環であるコーヒーセミナーに同行させていただいた様子をお届けします。
以下に改めて山本さんのプロフィールをご紹介させていただきます。
山本博文さん
コーヒー栽培技師としてフィリピン・ミャンマー・東ティモールを行き来する。コーヒー卸問屋を退社後、ベンゲット州国立大学で栽培地に通いつつコーヒーについて2年間研究。
コーヒーセミナーに同行
今回目指したのはベンゲット州にあるカパンガンという小さな町です。バギオからは20キロの場所にあります。
CGNの事務所のあるTALAゲストハウスからは専用のジプニーで向かうことに。バギオを抜けるとコーディリエラの美しい山々の姿が見えます。
途中小さなマーケットで昼食用の食料を買い込みます。セミナーなどで小さな村に行く際はいつもこうして食料を持参していくのだそう。この食料がみんなのランチになります。
目的地に到着すると自治体の集会所のような場所には付近の農家がすでに集まっていました。年配の女性を中心に約25名。筆者も一番後ろの席からセミナーに参加させていただきました。以下セミナーの内容です。
山本さんのコーヒー栽培技術指導
現地自治体の司会者による進行でセミナーが始まります。
反町さんからのCGN活動紹介を経て、午前中は山本さんによるコーヒーの基礎知識と栽培の技術的なお話が展開されます。
まず山本さんはいくつか農家の方に質問を投げかけます。
その結果年に1度の収穫期には1kg150~180ペソでコーヒー豆を販売するそうです。ほとんどの参加者が自分の農地で100~200本のコーヒーの木を育てているとのことでした。多くの方がアラビカ種のコーヒー豆を栽培していました。
基礎知識としてコーヒー豆には大きく分けて2種類あります。標高700メートル以上で雨季と乾季がはっきり分かれているなど限られた条件でしか栽培できない病弱ながら味わい深いアラビカ種。もう1つが苦味の強い、低地でも栽培可能で安価なロブスタ種です。
コーヒー豆専門店やこだわりあるカフェで販売されているものはアラビカ種、Nestle(ネスレ)などインスタントコーヒーになっているものがロブスタ種といえばわかりやすいかと思います。
ここコーディリエラ地方は気候の条件を満たしており、アラビカ種が栽培できます。つまりとっても味わい深く美味しいコーヒーができるのです。
そんなコーヒーの木の植え方、成長していく木をどのように手入れしていくのかという方法を山本さんは順に指導していきます。
参加したコーヒー農家の方々も真剣に頷きながら聞き入っています。コーヒー農家というと大農園にコーヒーの木がずらっと並んでいるような景色を浮かべられるかもしれませんが、コーディリエラ地方の農家ではアグロフォレストリー栽培(別名:森林農法)という方法がとられています。この方法は大量生産には向きませんが、品質の高いコーヒー豆の生産を持続可能にしてくれるものとして注目されています。
コーヒーだけを育てるのではなく、所有している土地で野菜や果物など複数の作物を育てることでコーヒーが不作の時にも他の作物で収入を得ることができます。収入のセーフティネットですね。
また他の作物と同時に育てることはデリケートなアラビカコーヒーを栽培する上で土地を肥やしたり、日陰になる木を作るという意味でもメリットとされています。コーヒーの木をメンテナンスする上で最も重要な「土地を肥やすこと」「日陰を作ること」「古いコーヒーの木を切ること」のうち2つを自然に果たしてくれるのです。
また小枝を処理したり、古い木を切ったりすることは一見村の人々にとっては理解し難いことかもしれませんが、病気予防につながり、結果的に収穫量を増やすことができます。
類似する他地域で実践した動画を時々プロジェクターで流すことで視覚的にも覚えてもらいます。
また害虫予防には木酢液が効果的だそうです。説明の中では「MOKUSAKU」と言われていたのではじめは何のことかわかりませんでした。英語でもそのまま「MOKUSAKU」だそうです。
他にも基本的に斜面で育つコーヒーの苗木の植え方のレクチャーもされていました。穴を作って根っこを垂直に植えなければ簡単に木ごと流されてしまうこと、木をしっかりと植えれば雨が斜面で止まり洪水対策にもなることなどを指導されていました。
技術的な話の後には山本さん、反町さんらが見慣れたコーヒーメーカーやペーパードリップなどコーヒー周辺機器を準備します。
先住民族の人々にもコーヒーを飲む習慣はありますが、彼らの場合コーヒーの粉をそのままヤカンに入れて沸騰させて飲むというスタイルをとっています。なので実際に消費者がどのようにコーヒーを飲んでいるのかというプロセスを生産者にも知ってもらうために実演してみんなで試飲します。
昼食の前には実際に集会所の横の斜面に植えられているコーヒーの木を使って実演しました。
参加した農家の方々もとても熱心に質問されます。「自分のところはこうしてるんだけど」と確認するように山本さんに尋ねていました。
昼食
Bangusと呼ばれるミルクフィッシュを中心に郷土料理をみんなでいただきます。中にはこうした料理を食べるためにセミナーに参加するという参加者も稀にいるそうです。
農家の声
昼食を終えて少し時間があったので何人かの農家の方に育てているコーヒーのことや家庭のことなどを聞いてみました。
コーヒーの収穫は年に1回で前述のようにそれほど量は多くありません。収穫期の1月から3月にはコーヒー豆をバギオまで売りに度々足を運ぶそうですが、基本的には作った他の作物などによる物々交換で今なお多くの方が暮らしているそうです。
しかしやはり医療費等でどうしても現金が必要になることがあり、現状収入は都市部へ出稼ぎに出た息子頼りだそうです。そんな現状もあって多くの方がセミナーに参加してより良いアグロフォレストリー栽培を学ぼうとしていました。
レナートさんによるコーヒー基礎知識講座
午後はCGNのスタッフであるフォレスター(森林官)レナートさんによるコーヒーの基礎知識、アグロフォレストリー講座が行われました。
レナートさんが帯同することで英語以外の現地語による質問にも対応できることがプロジェクトの強みとも言えます。
自分たちの栽培するコーヒー豆がいったいどのように市場に出て、どうやって消費者に楽しまれているのかを理解してほしい。というのも、味や匂いをいずれはCGNを挟まずに自分たちで売れるようになってほしいから、そんな思いから栽培にとどまらず楽しみ方まで一貫して共有するのだと言います。
「Tasty(美味しい)」で終わらずに、その先を説明できるようになってほしい。そうやって得たお金があなたたちを幸せにしますから、という思いを繰り返し訴えていました。
農家訪問
セミナーを終えると数人の農家の方々から山本さんに「うちの森を見に来てほしい」という依頼が入ったので一緒について行かせてもらいました。
それぞれの農家の方々の敷地(明確な境界線は見えず)には斜面があり、コーヒーの木をはじめ、様々なフルーツの木がなっていました。そんなアグロフォレストリーを実践されている方々のコーヒー栽培の現状に対して山本さんはアドバイスしていきます。
実際に葉全体が変色している木があったりとまだまだ課題は多いようです。
CGNと山本さんのプロジェクトでは一つの集落(コミュニティ)に3年間ほど通い、その後集落の人々が自立して活動できるように技術指導をしていきます。そうやって美味しいコーヒーの栽培を増やすことと人々の生計向上・環境保全に努めています。
まとめ:コーヒー栽培で持続可能な生活の実現へ
反町さん、山本さん今回はコーヒーセミナーに同行させていただきありがとうございました。
ただのプロダクトとしてのコーヒー生産ではなく、農家の方々の生活を守ること・環境へのインパクトを減らすことにつながる一連の流れを理解することができました。
そうして美味しいコーヒーを作ろうと努めることが結果的に生産者自らを豊かにし、それを飲む全ての人にとっても「満足」という幸せを届けることにつながります。
「みんなが幸せになる」ことがここでは形になりつつあります。